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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)84号 判決

控訴人 有限会社朝日亭

被控訴人 行田税務署長

代理人 清野清 池田春幸 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求の中、昭和四九年五月三一日付でした更正処分の無効確認を求める訴を却下し、その余の請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。本件を浦和地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、予備的請求として「被控訴人が昭和四九年五月三一日付でした更正処分及び同年九月三〇日付でした再更正処分はいずれも無効であることを確認する。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。当審における訴を却下する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加する外は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(控訴人の予備的請求の追加)

被控訴人が昭和四九年五月三一日付でした更正処分及び同年九月三〇日付でした再更正処分は、いずれも重大かつ明白な瑕疵があり無効であるから、その無効確認を求める。

(被控訴人の主張)

控訴人の右追加的併合は、以下の理由により許されないので不適法として却下すべきである。

一  本件追加的併合は、新訴である無効確認訴訟が本件取消訴訟の関連請求に係る訴訟であることを前提とするものであり、行政事件訴訟法第一九条一項所定の訴の追加的併合に該当するものと思料されるところ、旧訴の取消訴訟は高等裁判所に係属するのであるから、右追加的併合には同条一項後段の準用する同法第一六条二項の規定により被控訴人の同意を必要とする。

ところが新訴を旧訴に併合するとなると、被控訴人の新訴についての審級の利益は失われるので、被控訴人はこれに同意しないから、控訴人の右追加的併合はその要件を欠くものといわなければならない。

二  仮に控訴人の右併合が行政事件訴訟法第一九条二項にいう民事訴訟法第二三二条による訴の追加的併合であるとしても、行政事件訴訟法第一六条二項の準用により、右併合は被控訴人の同意を必要とするものと解すべきであるから、右一と同一の理由により右併合はその要件を欠くものである。

三  また本件は訴却下の訴訟判決に対する控訴人の不服の当否を審判の対象としているのであつて、その審理は本件訴の適否を巡つて行われるものであり、控訴審が第一審判決の判断を相当と認めるときには請求の当否の審理に入らず控訴を棄却し、その判断を不当とし第一審を取消す場合にも、自ら請求自体の審理に入ることなく、訴を第一審に差戻すべきであるから、請求自体につき審理する余地のない本件においては、請求の追加的併合を許すべきではない。

(証拠関係)<略>

理由

一  第一次請求について

当裁判所は、本件訴はいずれも不適法として却下すべきものと判断するものであり、その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。

二  予備的請求について。

(一)  被控訴人は本件新訴の追加的併合は、行政事件訴訟法第一九条一項による同法第一六条二項の準用により被控訴人の同意を要するところ、被控訴人は同意しないから許さるべきではなく、右追加的併合が民事訴訟法第二三二条による場合であつても同様被控訴人の同意がないから許さるべきではないと主張する。

しかし、行政事件訴訟法第一九条一項は新訴の追加的併合が、民事訴訟法第二三二条の規定により得ない場合であつても、新訴が係属中の旧訴と関連する請求に係る訴であるときは右併合を許すべきものとし、たゞこの場合旧訴が高等裁判所に係属中であるときは第一六条二項が準用さるべきものとしたものであつて、民事訴訟法第二三二条の規定により許容さるべき場合について規定したものではないと解すべきである。本件新訴の追加的併合は後述のとおり民事訴訟法第二三二条の定める要件を充足するものであるから、被控訴人の主張は採用できない。

(二)  進んで訴訟判決に対する控訴審において、請求の追加的併合が許されるか否かにつき検討する。民事訴訟法第三七八条が同法第二三二条を無制約的に準用しているところを考えると、訴訟判決に対する控訴審においても、請求の基礎が同一であり、かつ第一審においてすでに旧訴につき証拠調等の審理が行われていて、相手方の有する審級の利益を害するおそれがなく、また新訴に対する審理もその訴訟状態を利用できる状況にある場合においては、請求の追加的併合が許されるものと解するのが相当である。

そこで本件につきこれをみるに、新訴たる無効確認訴訟は本件取消訴訟と請求の基礎を同一にし、しかも右取消訴訟については第一審において証拠調等事実上の審理がほとんど終了していることが記録上認められ、従つて本件無効確認訴訟に対する審理もその訴訟状態を利用できる状況にあるものということができるから、控訴人の予備的請求の追加は許されるものというべきである。

(三)  ところで控訴人提出の「訴えの追加的申立書」によると、予備的請求原因は「本件各処分は重大なる瑕疵を有するもので無効である」というに止まり、瑕疵の具体的記載に欠けるけれども、控訴人が従来取消訴訟において本件各処分の違法として主張するところが即ち右にいう重大なる瑕疵に該当する趣旨と解されないこともない。

そこでこの観点から予備的請求につき考えるに、本件処分中昭和四九年五月三一日付でした更正処分は、被控訴人が同年九月三〇日付でした再更正処分により消滅に帰したこと前述のとおりであるから、右処分の無効確認を求める訴はその対象を欠くことになつて、確認の利益がなく、またその余の処分についての瑕疵は、控訴人が従来取消訴訟において主張するところによると「被控訴人は控訴人が昭和四八年四月二七日、清水忠治から買得した原判決別紙物件目録記載(一)の建物の価格が四〇四万一三〇〇円であるのにこれを九〇万円と評価した。被控訴人は控訴人が同年五月二〇日ころ交換によつて取得したコンバインの圧縮記帳による損金七〇万三八四〇円及び同年五月三一日買得したトラツクターの圧縮記帳による損金八九万〇四〇〇円を否認した。被控訴人は控訴人が同年四月二五日同目録記載(二)の土地を長谷川雅昭に売却した譲渡益がないのに譲渡益五一七万四一六〇円を認定した。」というのであるが、仮に右のごとき事実が認められたとしても、このことから直ちに本件各処分に重大かつ明白な瑕疵が存するものと認めることはできないところであつて、右処分の無効確認請求も理由がない。

三  よつて第一次請求についての訴を却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、当審における予備的請求中、昭和四九年五月三一日付でした更正処分の無効確認を求める訴を不適法として却下し、その余の請求を棄却することとし、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男 田畑常彦 原島克己)

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